「あの、あの、ってうるさいぞ。十四時頃にマンションへ迎えに行くからな。はい、決定」

「……」

「菜々、どうした?怒ったのか?」

 どうしてこうなる?子犬が飼い主の顔色をうかがうように私を心配そうに見つめる大きな目。はああ。

「……名字で呼んで下さい」

「……香月、いい?」

 ため息をついて頷いた私を目をキラキラさせて嬉しそうに見る。こうやって彼のペースに巻き込まれて行くのね。結局、彼のこの微笑みにいつもほだされてしまう。自覚はしているのだ。

 * * * *

 就業前になってようやく、新藤秘書室長が秘書課のメンバーを集めて黒沢さんと伸吾のこと、それ以外の人達のことを説明した。事件の後始末が終わったのだろう。