私は彼に言った。彼は相変わらずのクールな瞳をこちらに向けた。

「何かな、黒沢さん」

「その、女性秘書が許されるなら、立候補したい人はいると思います。私の方が香月さんより秘書経験もありますし、よろしければ……」

 彼は手を上げて私の言葉を制した。

「悪いが、俺は香月さんに決めたから、黒沢さんは瀬川専務にこのままお仕えして下さい。彼も昇格してさぞかし忙しいでしょう。何しろ、日傘専務の代わりだそうだし、さぞかし忙しいことだろう。君も覚悟してくれ」

 最後は冷たい目を向けた。日傘専務を追い出したのは瀬川専務と志村専務。彼はいきさつを知ったのかもしれない。

 実は総帥は日傘専務を更迭するつもりはなかったらしいが、うちの父が瀬川専務を巻き込んで数人の取締役と多数決で有利になるよう裏で仕組んだと後で聞いた。全ては先々のお前のためだと父は言っていた。