何より、彼の美貌は見る度に心を奪われてしまう。お母様はお嬢様だが、若い頃少しモデルもされていたそうだ。そのお母様譲りの大きな目とお父様譲りの高い鼻、高い身長に長い足、見れば見るほど欠点が見当たらない。

 お父様が言うにはお仕事をする能力もすごいそうで、私のお相手にこれ以上はない。とにかく、彼をものにしなくてはならない。やっと辰巳秘書がいないところでお誘いをかけることに成功した。

「申し訳ない。スケジュールは一ヶ月先まで一杯だ。土日祝日関係ない。それに、そういうのは辰巳経由で確認してくれたらすぐにわかることだよ。失礼する」

 そう言って、彼の香水の残り香を残して背中を向けられてしまった。

「……美保。君は本当に下手くそだな。ああいう手合いには普通のやり方は無理だぞ」

 後ろを見ると、眼鏡をかけたスーツ姿の男が立っている。彼は同期の斉藤伸吾。同じ秘書課で勤務している。出世欲が強く、最初、私にモーションをかけてきた面倒な男。まあ、見た目は悪くないが、崇さんに比べたら全然だ。

 一度だけ付き合ってあげたら勘違いして私の言うことを聞くようになった。彼の実家は中小企業。一応社長の息子だが、私のような有名銀行頭取の娘とお近づきになりたいのは世の常だ。