もう誰かを好きになることなんてないから。

わたしには関係ないはずなのに胸が鋭利な刃物でえぐられているように痛む。



「ごめん、俺が余計な事言ったね」


「いえ、柴田さんは何も悪くないです」


「優生ちゃんは気にしなくていいから」


「……はい」



これ以上何も言えなくなったわたしは気まずくなって視線を下に落とした。


わたしだけ何も知らないんだ。

わたしは御影さんのことを何も知らない。


思えば、いつも話しているのはわたしばっかりで御影さんのことを教えてもらったことはない気がする。


本当の名前だって知らないんだもん。
わたしはもっと、御影さんのことが知りたいのに。


沸々と湧いてきた悲しみを飲み込むようにわたしは瞼をそっと閉じた。


わたしが眠りに落ちてから御影さんが腫れ物を触るかのように優しく頭を撫でてくれていたことなんて眠っていたわたしは知らない。