心の中がモヤモヤして、それをかき消すようにわたしは食パンに何度もかじりついて黙々と食べ進める。
「おもしろいからつい」
「面白くないです!」
どうせ、キスだけでこんな反応しちゃうなんてバカだなって思ってるんでしょ。
モヤモヤが消えないわたしは立ち上がってキッチンで食器を洗う。
すると、いつの間にか御影さんが後ろに立っていて
「これから俺と大人の階段上ろうね、優生」
と、耳元で甘く囁いて自分の部屋へと消えていった。
「な、な、なに今の……ていうか、名前……覚えててくれてたんだ……」
御影さんの吐息が触れたところがじんじんと熱を帯びていく。
甘すぎるその囁きに耳が溶けて落っこちてしまうかと思った。
こんなことをされてお皿を落とさなかったわたしを誰か褒めてほしい。
出会ってからまだ一度も名前を呼ばれたことなんてなかったのに。
そんないきなりなんて反則すぎる。