あの日見た三日月は息を飲むほど美しかった。

ぴぴぴぴぴぴぴ

重い体を起こして、洗面台に向かう。

地獄の朝がやってきた。

顔を洗って目を覚ます。

食卓に向かって、いつもおなじみの明太子ご飯を口に詰め込む。

カバンを持って、最後に鏡で顔チェック。

無理やり口角を少し上げて、目尻を下げて、

これで、仮面は出来上がり。

よし、行ってきます。



キーンコーンカーンコーン

「良かったー、間に合ったー」

「もおー!ギリギリだよ!」

「ごめんごめん」

「えー、それでは〜朝のホームルームを始めるぞー」

はあ。今日の1時間目は英語だ。

大っ嫌いな教科。

なぜ、日本人の私が英語を学ばなきゃならないんだ。

みんな、将来役に立つとか言うけど、

私は海外旅行に行く予定なんてないし、行っても翻訳機があるし。

まあ、でも、他にもメリットはあるんだろうけど

先生のよく分からない英語を右耳から左耳に聞き流しながら窓の外を眺める。

雲ひとつないやさしい青空。

綺麗だけど夜の空には劣る。

今日は快晴。

どんな夜になるだろう。

待ち遠しい。

大好きな夜のことを考えていると、大嫌いな英語の授業はあっという間に終わった。

キーンコーンカーンコーン

はあ、やっと昼。

「しーほ!」

「うおっ!びっくりしたー!」

「一緒にお弁当食べよ!」

「うん。いいよ!」

~ランチタイム~
「志保ってモテるよね」

「よなー。自分もそう思う。」

また来やがったこいつ。

「顔かわいいもんね」

「はは、まあね」

「おい!wしかも、勉強もできるってハイスペックかよー!いいよねえ。元がいい人は。」

「ははは。」

相変わらず、上手い愛想笑い。



やっと学校が終わった。

ああ、夕焼けが綺麗だ。

ここから、ズーンと暗くなる。

もうすぐ夜だ!

そう思うとわくわくが止まらない。

若干スキップで帰路に着いた。

「帰りましたー」

玄関で靴を脱いだら、まずは洗面台に向かう。

そして、顔を洗う。

ここで、仮面は洗い流される。

リビングからいい匂いがする。

今夜はトンカツかな。

ご飯を食べ終わったら、即効自分の部屋。

机に向かって勉強を始める。

自分で言うのもなんだが、成績は良い方だと思う。

でも、それは毎日それなりに努力してるから。

元がいいなんてとんでもない。

PM12時

深夜の鐘がなる。

両親が寝ているのを確認して、こっそり外に出る。

そこは私の在り処。

私がありのままで居れる場所。

静まり返った夜の街を弾みながら歩く。

ああ、なんて、綺麗なんだろう。

そして、夜を存分に味わった後、公園のベンチに座って、自販機で買ったしじみ汁を飲む。

これまた染みる。

よし、帰るか。

ベンチから立ち上がって来た道を帰ろうとした。

その時、彼に出会ったんだ。

私は息を飲んだ。

月のように鮮やかな金色の髪に整った顔立ち。

綺麗だ。

私は綺麗な三日月の夜に息を飲むほど綺麗な君に出会った。











私は夢でも見ているのだろうか。

目の前の光景はあまりにも2次元的でそうとしか思えなかった。

なんと、その男の子は宙を浮いていたのだ。

思考が停止する。

彼は一瞬驚いた顔をして、地上に降りた。

私はどうしたら良いのか分からず、後ろにゆっくりと後ずさり、遂には全速力で家まで走った。
帰って、静かに玄関を閉める。

自分の部屋に行き、ベッドに倒れ込む。

まだ、ドキドキが治まらない。

綺麗だった。美しかった。

夢じゃないよね。

幻想ではないよね。

誰なんだろう。

歳は同じくらいだろうか。

また会えるだろうか。

彼のことが気になりすぎて、あまり寝付けないまま、朝が来た。



「うわああああ!寝坊した。」

やばい、早くしなきゃ遅れる。

今日はご飯を食べる暇がない。

ごめんなさい。お母さん。せっかく作ってくれたのに。

顔洗いと顔チェック。

仮面は忘れずに。

「行ってきマース」

途中まで頑張って走ったがもう間に合いそうにはなく、諦めて歩いた。

結局、学校に着いたのは1時間目の途中。

「遅れてすみません」

授業中なので静かに一言言って、そそくさと席に着く。

英語か。

むしろ遅れてよかった。

キーンコーンカーンコーン

「しほ!今日も一緒に食べよ!」

「うん!いいよ。」

「あ、てかさ、3組に転校生が来たらしいよ!」

「へー。そーうなんだ。」

「それでね、金髪で不良みたいなんだって。でも、顔は超イケメンらしいよ」

ドキッとした。

一瞬、脳裏に昨日の彼が浮かんだ。

もしかしたら、、、、

まあ、そんな偶然ないか。

「あ!今から3組に見に行こうよ!」

「え!?」

「ほら、はやく」

強引に腕を引っ張られる

3組の教室の前の廊下は、その転校生さんの見物客で賑わっていた。

ほとんど女子生徒。

中には

「きゃー!イケメン!狙っちゃおっかな」

などという声も。

これじゃあ、見れない。

「今日は諦めようよ」

そう言うと

「いや、こんな女子たちに負けるもんか」

と、ズンズン前に進んでいく友達。

私はすこし気になる気持ちはありながらも、流石にこの女子たちのなかに入るほどは強くなく、諦めた。

ドン!

うわ、激しい見物客に押されて尻もちをついてしまった。

なんだか、ムカついてきた。

なんなんだ。ほんと。

分からないように背中を押して仕返しをしてやろうかと思ったがやめた。

さっさと帰ろ。

そう思って立とうとした時、

「おい、大丈夫か?」

目の前には手を差し伸べる金髪の彼が。

ドキン

一瞬固まってしまったが、慌てて彼の手を取って起き上がる。

「あ、あの、ありがとうございます」

お礼を言い終わる前に彼は去っていってしまった。

ドキンドキンドキンドキン

うるさい。

心臓の音がうるさい。

ドキンドキンドキンドキン

そうか。私は彼のこと

一目惚れしてしまったのかもしれない。

そう確信してしまうと、なんだか恥ずかしくなり、早足でその場から離れた。

しばらくすると、ボロボロになった友達が帰ってきた。

「大丈夫?」

「あんの女子どもめ。次は容赦しねえ」

私は友達の言葉に苦笑しながらも、どこか上の空だった。
私は夢でも見ているのだろうか。

目の前の光景はあまりにも2次元的でそうとしか思えなかった。

なんと、その男の子は宙を浮いていたのだ。

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