" さくってばどこ行って… "



雪美の言葉を遮るかのように咲夜は懐から取り出した桜のかんざしを手渡す。







「…え?」



「髪飾りは高くてな、かんざしで我慢しといてくれ」



かんざしを手渡し、照れくさそうに腕を組んだ咲夜は再び目を閉じて寝たフリ。



かんざしを髪に挿す雪美



「…似合う?」



雪美の問い掛けに目を開けた咲夜は、真っ直ぐ見つめ、堪らなく愛おしそうに微笑む。



「ん、似合う。形ある物はいつか壊れる… でも、新しい物も見つかるから」



" さくのこんな顔初めて見た "



微笑む咲夜の表情にドキッとした雪美は頬を染め… 自分の胸の高鳴りを自覚した。



もしかして私、さくのこと…










ーー 更に月日が流れ、雪美は年頃の女になっていた。







あの日自覚した胸の高鳴りは、誰にも負けないくらい大きな恋心に変わり … この日も大好きな咲夜の家に行こうと川沿いを歩いていると突然声をかけられる。



「ゆーきちゃん♡」



「… なんでしょうか?」



誰だろう?振り返ると知らない女がにっこりと笑って私に対し笑顔を向けていた。



「咲夜がね、今度川下りに行こうって言うの!」



「…そう」



何なのこの子、どうして私に?


そもそも咲夜が女の子と川下り?何故?そんな事あるはずないじゃないと思った雪美は、事実を確かめるべく咲夜の家に急ぐ。



「さくー!!」







咲夜の家に到着した雪美は、今日も屋敷の入り口で咲夜の名前を呼ぶ。



暫くして出て来たのは蓮稀と咲夜の母上で…



「咲夜ならまた塩焼き屋にでも行ってるんじゃないかしら?」



「ありがとうございます、行ってみます!」



雪美は蓮稀と咲夜の母上から聞いた、咲夜行きつけの " 鮎の塩焼き屋 " に向かった。