先に歩道橋の一番上まで登りきった篠井くんが、おもむろに空を見上げた。
 私も階段を登りながら篠井くん越しにうろこ雲が泳ぐスカイブルーの空を見上げる。
 なぜかその空がいつもより広く見えて、息を呑んだ。

「伝統のルールとか上下関係とかつまんねーもんで集団を縛って、ちっちぇー世界の中で音楽させようなんてバカすぎ。 世界はこんなに広くて、音楽の可能性は無限に広がってんのに」

 篠井くんは、振り返って私を見下ろした。

「つーかこんな逸材をみすみす逃すとか、センスなさすぎ。ダセェ以外の何ものでもねー」

 相変わらず不機嫌そうな篠井くんの暴言が、干からびて死にそうになっていた心に優しい雨を降らせていく。
 じんわりと、あたたかいものが体中に浸透していく。