「へ」

 篠井くんはふいっと前を向いて歩き出してしまう。

 き……気持ち悪……?

「おい、何してんだよ。早く来い」

「っ、は、はい……っ」

 苛立ちを含んだ篠井くんに急かされて、慌ててその背中を追いかける。

「お前ん家どこ」

「あ……駅前公園の、近く……」

 聞くだけ聞いて篠井くんは、こちらを見ることもなく、駅前の方へとまっすぐ歩いていく。

 あ……あれ……?
 どうして私、篠井くんと帰ってるんだろう……?
 昨日は返事考えといてって言われただけで、一緒に帰ろうとか、友達になろうと言ったわけでもない。
 そういえば私の名前、教えてないのにどうして知ってたんだろう。
 篠井くんがどういう人なのか全然わからなくて、だんだん怖くなってくる。

「お前、軽音部入りたいのか」

 唐突に篠井くんが聞いた。

「え?」

「オーディション受けたんだろ。入りたいから受けたんじゃねーのかよ」

「……そう、だね」

 入りたかったことには間違いない。でも今はもう、極力関わりたくない。