「そこでちょっと話したんだけど、覚えてないかな!?」

 そこで篠井くんがようやく山岸くんを見る。
 その強い目力にドキッとしたのか、山岸くんは声を詰まらせた。

「知らね」

「え」

「つかさっきからキーキーうるせぇんだよ、猿かお前」

「さ、猿!?」

「行くぞ」

 ショックで石化した山岸くんとその仲間たちを残し、篠井くんは私のブレザーの袖を引っ張って歩き出した。

「わわっ、待ってくださ……っ」

 突然のことに足をもつれさせる私を、篠井くんは引きずるようにして廊下へ連れだす。
 その間も聞こえてくる黄色い声。
 かっこいい、本物だ、とか篠井くんをもてはやす声の中に、なんで津木沼?と言う声が混ざっている。
 恥ずかしさでみるみる顔が熱くなっていく。
 篠井くんは全く気にする様子もなく、そのまま私を連れて下駄箱まで降りてようやく手を離した。