恥かしくて消えちゃいたくなる。
 オーディションなんか行かなければよかった。
 なにか変わるかも、なんて夢見た私がいけなかったんだ。
 出そうになる涙を必死にこらえる。
 もうこんな惨めな思いはしたくない。
 これからは当たり障りなく、なるべく目立たないように、なるべく人の目に入らないように……


「津木沼音葉ー」



 突然、教室前方のドアから私を呼ぶ声がした。

「え……」

 そこにいたのは、
 黒いサラサラな髪に凛とした鋭い目元、スラリと伸びた背に首元の、大きなヘッドフォン……ヘッドフォンの彼だった。

「っ……」

 うそ、どうして……?

 キョロキョロする彼に返事をしなくてはと、私は少しだけ体を前のめりにした。
 すると教室にいた女の子たちが「キャー!」と黄色い歓声をあげた。

「え!?篠井くん!?」
「やばい!!」
「私ファンなんだけどー!!」

 篠井くん……?