「あー……」

 改めて声を出してみたら、ドブのように汚いしゃがれ声が響いた。

 ……確かにこんな声、誰も聞きたくないよね……。

 思い出してまた悲しくなってきてしまうのをごまかすように、また茜空に歌い始める。
 今度は、お父さんに教えてもらったDadd9から始まる曲。 洋楽のバラードだ。

「……~♪」

 さわやかな瑞々しいコードに、私のしゃがれた声がのる。

 これは、私のための歌。
 誰もきいてくれない、誰も褒めてくれない。
 世界に私だけ、誰でもない私を慰める為だけの歌。
 自分で自分の歌に感動するなんて、バカみたい。
 こんな風に一人で浸って歌ってるところなんて誰かに見られたら、大爆笑されちゃうかも。
 でも、それでもいまこの瞬間だけは、世界一かっこいい歌姫になった気分でいたい。
 この世界にとって邪魔な存在の私でも、これぐらいのわがままは許されたい。


 最後にDadd9の余韻を味わうと、私の声ほど汚くないカラスの鳴き声が、一番星を光らせる複雑な色合いの空に響き渡った。

 遠くの方に部活終わりの中学生たちが帰っていくのが見えた。

 ……そろそろ帰らないと、また変な噂をたてられてしまう。
 名残惜しい気持ちに蓋をして、ギターをしまおうと持ち上げた。