神社に着くとそこは色とりどりだった。
紅白の屋台、
黄色ののぼり、黒い太文字で書かれた看板、
桃色や水色、緑や橙色に着飾ったお嬢さまたち。
それだけでくらくらしてきた。
「舞子さん、やっぱり顔色悪いです。帰りましょう。暑いし、人混みの中行くのは危険です」
「ち、違うの。あの、その、ええと」
恭平は彼女の言葉を待つ。
「そ、その。変じゃないかしら」
「なにがです?」
「周りのお嬢さん方は可愛い色の晴れ着なのに、私だけこんな地味で」
なんとか言葉を絞り出す。
「大丈夫です。俺には舞子さんしか見えませんから。ここで待っててください。りんご飴買ってきます」
彼は敷地の外に私を置いて、颯爽とりんご飴の屋台に向かう。
『俺には舞子さんしか見えませんから。』
真っすぐな彼の気持ちは飛び上がるほど嬉しいはずだった。
でもそんな彼の気持ちは素直に受けとれなくなって、歯の浮いたような台詞にしか聞こえない。
舞台や画面の中で男優と女優が演じているような。
身体が冷えてゆく。
あんなにロマンスに憧れていたのに、
滑稽に思えて、
混乱して、
涙が出て。
入口で泣いている女を気遣わしげにしながらも通り過ぎる人々。
涙はお祭り囃子にかき消される。
りんご飴を買い、舞子の元に戻った恭平は目を見開いた。
「やっぱり戻りましょう」
「せっかく来たのに……」
「お祭りは秋にもあるし、来年もありますよ」
恭平は子どもに言い聞かせるように笑った。
恭平はりんご飴とおつりの20円を握ったまま、舞子と来た道を引き返していった。