夏祭りの約束をした翌週。
被服室へ行くと、舞子の横に立たされた。
「ちょっとじっとしていてね」
彼女は親指と人差し指を広げ、肩から手までの距離、肩幅、首から足首までを順番に測った。
脇や首筋はくすぐったいし、太ももの横の際どいところを触られたが、舞子さんはいたって真剣で、抗議の声はあげられなかった。
舞子さんから許可が出て、いつもの向かいの席に座り、身体の力を抜く。
「突然どうしたんですか」
「夏祭りに誘ってくれたお礼をしようと思って」
小首をかしげた舞子さんはそれ以上話してくれなかった。
課題に取り組む自分と縫い物をする舞子さん。
静寂に包まれていても、気まずくはなく、むしろ心地よい。
窓から吹く夏の風が蒸し暑い。
雨はしとしとと降り続く。
でも、学校にいる実感がわくから嫌いじゃない。
早く部活に向かわなきゃいけない。
けれど、それとは裏腹にシャープペンは止まる。
「大丈夫?分からないところある?」
「大丈夫っす」
舞子さんは縫い物を続ける。
課題は終わりに差し掛かる。
「……課題終わったんで、俺はこれで」
「お疲れ様」
「来週からは夏休みなので、居残りには来ません。舞子さん、寂しかったりします?」
恥ずかしくて真剣には聞けなくて、おどけて聞いた。
「寂しい……かもしれないわ」
てっきり、舞子は寂しいとは言わないと思っていたから、恭平は面を食らった。
「おかしい?」
恭平は首を横に振る。
「俺も舞子さんに会えなくなるのは寂しいです。その分、再来週の夏祭り楽しみにしています」
「私も」
旧校舎の階段を下る足音はなんだか名残惜しいみたいに響いた。