「あの、冬月くん」

「ん?」

「今日は、ありがとうございました。その、この辺で失礼いたします」

「え?」


 私はベンチから立ち上がり、立ち去ろうとした。が、冬月くんに腕を掴まれてしまう。


「待って。俺、何か白雪さんの気に障るようなことした?」

「…いえ」

「今日、全然楽しそうじゃなかったよね。俺がちゃんとエスコートできなかったから?」

「そんなことは、」

「ごめん!」


 冬月くんは申し訳なさそうに頭を下げた。


「え、冬月くんが謝るようなことはなにも…」

「俺、女の子とデートするのって初めてで」

「え?」

「この前、妹に今日の予習として、デートの練習に付き合ってもらったんだけど、お兄ちゃんとデートしても全然楽しくない、って怒られて」


 ん?


「せっかくのクリスマスで、白雪さんを楽しませたかったのに、俺の力不足で…ごめん」

「妹、さん…?」

「え?ああ、妹がいて、よく買い物に付き合わされるんだ。男は女の荷物持ちだとか言って」


 妹さん…。じゃあ、この前私が見た女の子は妹さん?噂になっていた彼女も妹さんだった?

 全身の力が抜けてしまった私は、ベンチにぺたんと力なく座り込んだ。


「白雪さん?大丈夫?」


 妹さん、妹さんかぁ。

 我ながらありがちすぎる勘違いに、私は思わず笑ってしまった。


「そうでしたか…よかったぁ」

「よかった?」

「私、てっきり彼女さんがいるのに、今日無理に私と出掛けてくれているのだと思っていました」

「だから、俺が誘っておいて、無理もなにもないでしょ。俺が白雪さんとクリスマスを一緒に過ごしたくて誘ったのに」

「え?」

「え?」


 自分の言った言葉に気が付いたのか、冬月くんは照れたように顔を真っ赤にさせる。


「今なんと仰いましたか?」

「だから、白雪さんと一緒にクリスマスを過ごしたかったんだ」


 私は冬月くんの言葉に目を丸くする。


「私と?なぜ?」


 素直な疑問が口を付いた。私が冬月くんと過ごしたいならわかる。だって、私は冬月くんが好きだもの。けれど、彼が私と過ごしたい理由に見当が付かない。

 冬月くんは、真っ赤にした顔を少し隠すように、でもしっかりとその言葉は私へと届いた。


「白雪さんが好きだからでしょ…」

「え、」

「好きな子とクリスマスデートしたかったんだよ」

「もう勘弁してくれ」と冬月くんは自分の顔を覆った。


 好きな子?私が?冬月くんの好きな子?


「そっ……そうでしたか……」

「そうだよ…白雪さん、鈍すぎる…」


 耳を疑うような言葉の連続に、私の心臓はドキドキと早鐘を打つ。

 冬月くんはベンチから立ち上がると、照れながらも私に手を差し出した。


「この後イルミネーション見に行くでしょ?」


 私はその手にそっと自分の手を重ねる。


「い、行きます」


 辺りは少しずつ暗くなって、広場にもイルミネーションが灯る。

 キラキラと光る街に、ふんわりと真っ白な雪が降り始めた。

 私達は手を握り合って歩き出した。



 12月24日、クリスマスイブ。私の運命の恋が動き出した瞬間だった。


「あの、冬月くん」

「ん?」

「私も冬月くんのこと、大好きです!」



終わり