「おはよう、陽向ちゃん!!!」

「お、おはよう、えと、果音ちゃん!」

「ぐふっ」

「えっ」


陽向ちゃんの戸惑う声が聞こえた。

というのも、私が急に胸をおさえたからである。

ひ、陽向ちゃんかわいすぎ…………!?

ちょっと照れてる感じがよすぎる。

今のでご飯10杯はいけるかも。


「あの、果音ちゃん、昨日はありがとう……!」

「いやいや、何もなかったようでなによりだよ」


また撃ち抜かれそうになりつつも、私はにっこり笑った。

そして、もうとっくに席についている隣の人にも笑いかけた。


「おはようレイくん!昨日はありがとうね!」

「いや…だから、別にいいって」

「あはは、やっぱりレイくんは優しいねえ」

「……?」


レイくんは、私の言葉に対し、不思議なものを見るような目で私を見た。


「…………優しい?」

「うん」

「俺が?」

「うん」

「…………優しい、か」


なにか思うところがあるのか、黙りこくるレイくん。

自分が優しいって思っていなかったとか?

それとも優しいって言われたくなかった?


「レイくん?」

「ん?」

「どうかしたの?」


聞いてみるも、レイくんは首を横に振った。


「…なんでもない」


なんでもないならいいけれど。

どこか引っかかった様子のレイくんに、私は首を傾げることしかできなかった。
そうして私は席につく。すると。


「よう、果音」

「あ、おはよう慎吾くん!」


軽く片手をあげて挨拶してきた、後藤(ごとう) 慎吾(しんご)くん。

私は中1の途中にこの街に引っ越してきたんだけど、その頃から仲が良いクラスメイト。

優秀で明るく、バナナが大好きな人。

更に木登りが得意で茶髪で温泉が好きで……あれれ?

茶色い動物が思い浮かんだが、それは心の中に留めておくとしよう。


「よう、三ツ瀬!今日はいい天気だな!」

「……だな」

「桜見たか?綺麗だよな!」

「……へえ」

「…………」


おお、忘れかけてたけどそういえば、レイくんって2文字以内の返答がデフォルトなんだっけ。

慎吾くんにも桜にも興味が無い。

私だってみんなよりは打ち解けたかもしれないけれど、やっぱり興味は無さそうだ。

うーん、ブレないなあ、レイくん。

思い出した私は、無言で私を見てきた慎吾くんに、頑張れという気持ちで苦笑いを送っておいた。






「席つけー、数学始めるぞー」


ドラちゃんがやってきて、数学が始まった。

いつもは天敵だが、今日の私はひと味違う。

そう、レイくんとの勉強会を経た私はいつもより賢い!


「結野、問2は」

「解なし!」

「……!」


ドラちゃんの顔が喜びに染まる。


「結野!正解だ!」

「よっしゃー!!」


私はガッツポーズしながら隣のレイくんを見やる。


「レイくん!ありがとう、できた!」


すると、レイくんはふっと微笑んだ。


「……よくできました」

「っ!」


…………なあんだ、できるんじゃん。

楽しそうな笑顔。

くしゃっと目を細めて笑うその姿は、とってもかっこいい。

私の中に、レイくんの笑顔が深く刻み込まれた気がした。





「そういえばレイくん、なんかして欲しいこととかない?」

「特にない」

「そんな即答しなくてもー」


授業が終わってから、私はレイくんに言った。


「急にどうしたの」

「お礼がしたいんだよ、勉強教えてくれたお礼」

「いいって」

「私の義理を果たさせてよ」


私はとっても嬉しいから、ありがとうって言うだけじゃ足りない。

お礼がしたい。

レイくんにも、この嬉しさをお裾分けしたいんだ。


「……わかった、考えとく」

「よかった」


やっぱり受け入れてくれるんだなあ。私のわがままなのに。

でも言ったからには、喜んでもらえるように頑張らないと。

私はそう思いつつ、カフェオレを飲む。


「……カフェオレ、好きなの?よく飲んでるけど」

「ん?うん、好きだよ。レイくんは何が好き?」

「多分、エスプレッソ。よく飲みたくなる」


おー、好きな飲み物くらいはあるみたい。

まあ、言い方が「好き」とか「おいしいから」とかじゃなく、「よく飲みたくなる」なのはレイくんらしいかな。