ガタンゴトン。

電車に揺られるは、水族館デートの帰り。

来るときよりもずっと甘い雰囲気で、甘いレイくんと隣に座る。


「ねえレイくん、私たちカレカノだね」

「そうだな」


微笑むレイくんとこそこそ言い合う。

このやりとりももうこれで4回目だ。

私もレイくんも、それはもう浮かれているのだ。


「今日はいろいろあったねえ」

「果音の烏猫事件とか?」

「えへへ、恥ずかし」


へにゃりと緩んだ顔でへにゃへにゃした声を出してしまった。

どれだけデレデレなんだ、私。


「ウツボとミノカサゴも見たねえ」

「アザラシとエイの話もした」

「イルカショーを見て」

「……」


レイくんが黙って私の手を取る。

静かに甲に口付けたレイくんが、笑った。


「…っ」


そうだ。そしてイルカショーで、私たちは両思いになったのだ。


「あああーっと!!」


照れた私は、また話を逸らそうと試みる。

なにか話題なにか話題……。

そのとき、レイくんの黒いエコバッグが目に入った。


「そうだ!アザラシとエイに名前つけなきゃね」

「名前?」


レイくんはまたしても乗ってくれた。優しい。


「家にね、イルカのぬいぐるみのイルカマンがいてね」

「イルカのイルカマン」

「そう、だから名前つけなきゃなーって」


レイくんは何か言いたげだが、何も言わないので気にせず続ける。


「そうだ!私のアザラシとエイの名前はレイくんが決めてよ!」

「俺が決めていいの?」

「勿論!」


元気にそう答えると、レイくんは思案し始めた。

どこか遠くを見て考える姿も好きだ。


「あーちゃんとえーくんとかどう?」

「ふふ、まんまだ」

「イルカマンとドラちゃんの名付け親に言われてもな」

「えへ」


シンプルイズベスト、というのは建前で、ただのアイデア不振だ。

でもイルカにエリザベスとかつけても変だと思うんだ。

これはこれでいいんだよ、それっぽくて。


「じゃあ俺のは果音がつけて」


レイくんがそう言った。


「んー、そうさせてもらおうとしたんだけどさ」


私はレイくんのエコバッグの中を覗き込む。

そこには、アザラシとエイが仲良く2匹ずつ並んでいた。


「アザラシとエイはつまるところ、私とレイくんなんだよね。同一人物なんだから、同じ名前でいいかなって」

「それもそうか」

「ちゃんと考えたよ?思いつかなかったからとかじゃないよ?」


怪しげな目で頷くレイくんに言うと、じゃあ、とレイくんは聞いてきた。


「なんて考えてた?」

「ごまちゃんとあかくん」

「ゴマフアザラシとアカエイだからか」

「バレた?」


やっぱりわかりやすいな、なんて。

そう笑ったレイくんの笑顔は、エイみたいにちょっとかわいい。

袋から取り出したアザラシとエイを抱えながら、私はにこにこと微笑んだ。