だいたい中を見終わったあと、レイくんは腕時計を見る。
「イルカショーまでまだ時間あるな。お土産見る?」
「見る見る!」
はあ、レイくんのエスコート完璧すぎか。
そのせいで私の返事がいっつもお母さんに連れてきてもらった子供みたいな。
いや、子供扱いしてるわけじゃない、わかってる。
レイくんは、ここまでして私を楽しませようとしてくれてるんだ、きっと。
……自惚れかな?
そんなことを考えながらお土産屋に行くと、私は真っ先に視線を巡らせてとあるものを探す。
「あっ!あった!」
するりとレイくんの手を離す。ちょっと名残惜しいけど、しかたない。
それがある棚に駆け寄って、取って、抱きしめながらレイくんを振り返る。
「ねえ、見てみてレイくん!アザラシとエイ!」
「…っ」
にっこり笑うと、追いついてきたレイくんが息を呑んだ。
「っはー……かわいすぎ」
「え、今なんて?」
「なんでもない」
「?」
何かぼそっと呟いていた気がしたが、聞き取れなかった。
それより、この2つ、買おうかな。
家にいるイルカのイルカマンくんの仲間ができるね。
「2つでいくらかなーっと、あ…」
すっ、と手から2匹が取り上げられた。
いつの間にかカゴを手に持っていたレイくんが、アザラシとエイを2匹ずつ、カゴに入れる。
「レイくんも買うの!?」
「買う。気に入ったから」
レイくんは自分の財布を取りだした。
「2つで何円かな?」
「ゼロでいいよ。俺が買う」
「えっ」
レイくんが財布を出そうとする私の手を止める。
「いやいや、私のだし、私が」
「あ、あそこに水族館限定デザインの飲み物が」
「ほんと!?どこ!?」
私は、レイくんの話題逸らしにまんまと引っかかってバッと振り返った。
たしかに、向こうにはかわいい水族館デザインの飲み物たちが。
「カードで」
「かしこまりましたー」
「はっ!?」
しまった!お会計!と思うももう手遅れ。
レイくんの真っ黒なエコバッグにアザラシたちが入ってゆく。
ああ……やってしまった…馬鹿にもほどがあるよ、ほんと。
こんなのに引っかかるなんて!
あとで払おう。
そう思いつつやっぱりかわいいので、飲み物を買いに自動販売機に歩み寄る。
「っくく…果音ちょろすぎな」
すると、お会計を終えたレイくんが隣に来た。
「もう、ほんとそれ。私自身がいちばんビックリしたよ」
「詐欺にすぐ引っかかりそう」
「言えてる…」
といいつつ、私は唇をとがらせて不満を表わす。
「払ってくれなくてもよかったのに」
「俺が払いたかったからいいだろ」
そこまで言われるともう反論できない私、やっぱりちょろい。
でも、レイくんが私の飲み物すら買おうとしたときは、流石に断固拒否した。
****
イルカショーを見るため、席に着く。
席は、レイくんのお願いにより1番後ろにした。
どうしてもそこがいいらしくて。
なんだろうと思ったけど、特に席にこだわりは無いので許容した。
『みなさーん、こんにちはー!』
トレーナーの元気な声に、前列に多くいる子供たちが反応する。
『今日は来てくれてありがとうございます!精一杯頑張るので、どうぞ楽しんでいってくださいねー!』
そうして、イルカショーが始まった。
イルカが宙に吊るされたボールをついたり、フラフープをくぐったり、大きくジャンプしたり。
ときにはトレーナーを乗せてプール中を泳いだり。
そんな多彩なパフォーマンスに目を輝かせる。
「すごーい!今まわった!?トリプルアクセルくらい!?」
「なぜスケート?」
キラキラ輝く水、イルミネーション、トレーナー、イルカ。
それのどれもが魅力的で。
「綺麗……」
そう呟いた、そのとき。
「?」
首元に触れた、ひんやりとした感触。
いつの間にか、私の首にはネックレスがかかっていた。
いかりのエンドパーツがついたシルバーネックレス。
とってもおしゃれで、ファッション初心者の私でも値が張るものであることはわかる。
驚いてレイくんを見ると、レイくんが手を重ねてきた。
「…っ」
レイくん、さっきまでショー見てたと思うんだけど。
いつの間に、こんなこと。
私が夢中すぎて気づいてなかっただけ?
「…レイくんが、くれたの?これ」
「さっき買った」
お土産屋か。
気づかないうちにこれも買ってたんだね。
もう、レイくんってばやっぱり優しい。
「果音」
レイくんの指が絡む。もう一方の手が、菜の花の髪飾りを撫でる。
さっきは冷たかったレイくんの手が、熱い。
「…レイくん?」
レイくんの瞳が濡れている。
真っ黒な双眸が、熱を帯びる。
その目に、吸い込まれる。
「…果音のことが、好きだよ」
目を見開く。
勘違いのしょうがない言葉。
下手に遠回りに伝えれば勘違いするって知ってるから。
烏を猫って見たみたいに理解出来ずに終わっちゃうから、ストレートに。
レイくんが、私を、好き。
『好きだ、果音。こっちにおいで』
あの日の言葉が頭をよぎる。
だけど、レイくんの告白は、いつかの貴也くんと同じくらい、いや、それ以上に熱く、甘いものだった。