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遠くからみんなの楽しそうな声が聞こえる、階段。
屋上の扉の手前に座った私は、隣の慎吾くんの言葉を待つ。
「なんかさ、俺」
慎吾くんは、ぽりぽりと頭をかいた。
「前々からちょっと思ってたんだよ。俺、三ツ瀬に勝てる気しねーなー、って。実力だけじゃなく、中身もさ」
「……」
「でもやっぱ諦めたくなかった。結野とのお出かけがかかってたわけだし」
「……あ」
そういえば、そんなことも言ってたっけ。
すっかり忘れてた私は、居心地悪そうに目を逸らしてしまう。
忘れてたのかよ、と笑った慎吾くんは、一回深呼吸してから、続けた。
「好きだよ、結野」
「―――!」
ずきっ、と心臓が痛む。
さっきから薄々と感じていたことを突きつけられた。
本当はもっと早く気づくべきだったのに。
でも言われたからには、答えなければならない。
私は、レイくんが好き。
私はこれから、この人を傷つけるのだ。
「……ありがとう、慎吾くん」
「……」
「でも、ごめんね。私は応えられない」
くっと慎吾くんの顔が強ばる。
瞳が潤む。
慎吾くんの手が、包帯の見える足首をさする。
「……わかってたよ」
無理して笑う慎吾くんの声が、震えた。
「聞いてくれてサンキュな、果音」
慣れないように名前を呼んでくる。
さっき名前を呼び始めたばかりだからだろうか。
それとも、その隠せていない傷ついた顔を隠すためのわざとか。
それに気づいても、私は何も出来なかった。
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「果音」
慎吾くんに言われ先に戻ると、真っ先にレイくんが声をかけてきた。
その瞳は不安そうに揺れている。
「レイくん?」
「…………」
首を傾げるも、レイくんは何も答えない。
暫くしてから、レイくんは私の髪に触れる。
今日は菜の花の髪飾りをつけていない。
体育祭だから外しただけ。いつもはつけている。
いつも髪飾りがある場所をさらりと梳いて、レイくんはやっと口を開いた。
「……いつ、出かける?」
「そーだなあ……じゃあ早速、明日か明後日?明後日は確か振り替え休みだよね?」
「ああ」
ああ、だって。
レイくんの口調がちょっと崩れたの、なんか新鮮。
いっつも優しいから。
「なあ、果音」
「なに?」
レイくんは口を噤む。
そのあと口を開いたかと思うと、躊躇ったように口を閉じる。
なんか気になることでもあったのかな。
首を傾げたままじっと待っていると、レイくんはやがてぼそっと呟く。
「……後藤と、付き合った?」
「へ?」
慎吾くん?
なんでそこでそれが?いや告白はされたけど。
っていうか、レイくんやっぱり慎吾くんの気持ちに気づいてたんだねえ。
私がやっぱりニブいのだ。
私は、ゆっくりと首を横に振る。
「付き合ってないよ。ちゃんと断った」
すると、今まで南極のように張り詰めていたレイくんの雰囲気がほわっと戻った。
表情も柔らかくなった気がする。
「そっか…………そっか」
「???」
それで、慎吾くんがどうかしたのか。
そう聞いてみるも、レイくんは答えてくれずに頭を撫でてくるのだった。