パン!っと銃声。

いや、銃声っていうのよくないな。うーん、スタート音?

こう、よーい、パン!って鳴らすやつ。

そんな音とともに、陸上部のタカハラくんがスタートした。

今日は体育祭……ではなく。

体育祭のための放課後練習だ。


「ターカハーラくーん!頑張れー!」


そう叫びながら持ち場につく。タカハラくんの次は慎吾くん、その次に私、最後はレイくんだ。

今年の50メートル走は6秒20だった。

慎吾くんは6秒32、レイくんは6秒12。

タカハラくんが何故か泣きそうになっていたが、触れて欲しくなさそうだったから理由を聞くのはやめておいた。

ということで、体育祭の練習中だ。

タカハラくんは綺麗なフォームで走ってくると、慎吾くんに呼びかける。


「いくぞ、後藤!」

「おう!」


そして慎吾くんが走り出す。


「頑張れーっ!」


応援しながら、ふとこの前を思い出す。


『果音の休日1日頂戴』


……勝負、か。

なんでそんなことになったのかわかんないけど、今はそれに対する気持ちはちょっと変わってきた。

…私は、レイくんが好き。

私は、レイくんに勝って欲しい。

でもふたりは正々堂々勝負するんだから、私が首を突っ込むのはよくないし。

中立、しかないよねえ。


「果音!」


慎吾くんが近付いてくる。

私は走り出し、流れるようなバトンパスの後に、もやもやと考えながらヤケになって全力疾走したのだった。


「この勝負、果音の優勝かもな」

「言えてる」


結果、私のパートは最新記録を更新した。