「よろしい。では、ランパーよ。お前に伝えておくべきことがある」
「……なんでしょうか?」
「ラナーシャは、このドルピード伯爵家の一員として公的に認められている訳ではない。そこにいるのは、ただのメイドの娘ということだ」

 ハワード様は、わざとらしく身振り手振りを交えて話していた。
 それがどういう意味かはわかっている。恐らく、マグナスもそうだろう。
 ただ当事者の二人は、よくわかっていないという顔をしている。やはり、実際にその問題に直面している二人は、冷静に考えることができていないのだろう。

「つまり、例えばお前がラナーシャと結婚したとしても、それは職場で出会った執事とメイドが結婚したに過ぎないということだ」
「……え?」
「使用人の結婚は、主人にとっても当然祝うべき事柄である。マグナス、お前はどうする?」
「もちろん、祝言をあげましょう。何なら、結婚式を取り仕切ってもいい」
「だそうだ」

 ハワード様は、とても楽しそうにしていた。恐らく、これが元来の彼なのだろう。
 そんな彼に対して、ランパーとラナーシャは固まっている。まだ状況が、飲み込めていないということだろうか。

「……ハワード様」
「む? ラナーシャ、どうかしたのか?」
「……どうして、そんな風に勝手に話を進めるのですか?」
「え?」