「……ええ、殺してやったわよ。あの女は、目障りだったもの。あなたも殺してやるつもりだった。痛めつけて痛めつけて、殺してやるはずだったのに!」

 夫人は、ラナーシャに乱暴に言葉を放った。
 それに対して、私を含めた周囲の四人は思わず体を動かしそうになった。
 だが、皆その体を止めている。ラナーシャがまったく動じていないからだ。

「何よ。その顔は……もっと、驚きなさいよ! 苦しみなさいよ! 私にそんな目を……向けるな! 妾の子風情が!」
「……あなたと離れて、様々な人と関わって、私は理解しました。あなたは弱い人なのだと」
「な、なんですって?」
「強大に見えたあなたが、今はなんとも情けなく見えます。あなたはお母様のことが怖かったのでしょうか?」
「はあ、はあ……」

 ラナーシャの言葉に、夫人は息を荒くしていた。
 彼女は恐怖している。虐め抜いていたはずのラナーシャに、夫人は怯えているのだ。

「あ、あなたなんかに……」
「私はあなたを許すことができません。ただお兄様方に免じて、あなたに罪を償う機会を与えたいと思っています。どうかその罪を償ってください。そしてもう私の前に、姿を現さないでください。きっとその方が、お互いのためにいいですから」

 拳を握り締めながら、ラナーシャはそう言い切った。
 母を殺された怒りを、彼女はぐっと抑えている。その様はとても、気高く思える。私なんかよりも、彼女の方がよっぽど誇り高い。
 こうしてラナーシャは、自らの過去から続く因縁に決着を付けた。彼女は、過去を乗り越えたのだ。