「ま、まだ私にはやるべきことがあるのだ……この家はどうなる? イピリナやイレーヌは……うぐっ」
「伯爵家なら私の夫が継ぎますからご安心ください」
「……な、何を言っている?」

 お父様は、残される妻や娘、そしてカルロム伯爵家のことを気にしていた。一応、当主としての自覚はそれなりにあったようである。
 しかしながら、何の因果か私はそんな彼を絶望させる情報を得ていた。これはつい最近わかったことである。

「イレーヌは、あなたの子供ではありません。お義母様、つまりイピリナ様は他の男性とも関係を持っていたそうですよ」
「ば、馬鹿な……」
「イレーヌは、その方との間にできた子供であるそうです。故にこの伯爵家の血は流れていません。血を継いでいるのは私だけです」
「う、嘘だ……そんな、はずはないっ――嘘だああああああああっ! あっ……」

 最後に絶望的な顔をしながら、お父様は事を切れていった。
 動かなくなった彼を見ても、特に感情が揺れることはない。自分がこれ程まで冷たい人間になれることに、驚いているくらいだ。
 そんなことを考えながら、私はふと人の気配がすることに気付いた。後ろを向くと、そこには私の義妹がいる。