苦しそうに蠢いているお父様の顔を、私は眺めていた。
 間接的に人を殺したことになる訳だが、罪悪感はちっとも湧いてこない。それはもしかしたら、目の前にいるこの男の血が流れている何よりの証拠なのかもしれない。
 そんなことを思いながら、私は考えていた。この最期の瞬間に、私が彼にかけるべき言葉は一体なんなのかということを。

「透明な毒は、検出することが不可能であるそうです。つまり、あなたの死因も心臓麻痺だとかその辺りになるでしょう。残念ながら、私が捕まることはない。まあそもそも、毒を用意したのはあなたですし、どの道私が捕まるなんてことはないでしょうが」
「あ、嫌だ……し、死にたくない」
「苦しいですか? でも、あなたは恵まれている方ですよ。私のお母様が受けた苦しみは、そんなものではないですからね」

 お父様は、私のお母様を苦しめてきた。
 そんな痛々しい様子をずっと見ていた私は、この男にはいつか報いを受けさせなければならないと思っていた。
 あまつさえお母様を手にかけた彼に、私は罰を与える。最後の最後まで、この男に希望は与えてやらない。

「た、助けてくれ……」
「無理ですよ。もう助かりません。透明な毒は、一度体内に入ったらもう助からないんです。それはお父様も、知っているでしょう?」