「それならば、わかっているだろう。ラグナメルの町に行ったな? そこで一体、何を見たのだ」
「さあ、それはどうでしょうね」
「ふん。気に入らんな。そういう所は母親に似たか……」

 そこで、お父様はゆっくりと立ち上がって窓際に行った。
 外の景色を見ながら、お母様のことを思い出しているのだろうか。
 お父様は、何やら色々なことを言っている。そのほとんどは、お母様に対する罵倒であるため私は聞き流すことにする。

「昔からあいつはそうだった。この私に逆らう愚か者だったのだ。あれと結婚したという事実は、私にとって忌々しい過去だ」

 お父様の愚痴を聞くよりも、私にはやるべきことがあった。
 それは目の前にある紅茶のことだ。ここに来た時に、メイドが持ってきたこの紅茶は本当にただの紅茶なのだろうか。
 とりあえず、口をつけることは得策ではないだろう。勧められても飲まないことを心掛けるべきである。

 しかし私は思っていた。いくらお父様でも、実の娘を手にかけるようなことはしないのではないかと。
 彼は私を助けてくれなかったが、危害を加えては来なかった。もしかしたら、私に対する多少の情があるのかもしれない。

 それを確かめるために、私は紅茶を手に取った。
 そしてそれを、お父様の側にある紅茶と密かに入れ替える。