「例えばこの薬は、若返り薬というやつです。飲むと肉体を活性化させて、十年程肉体の年齢を若返らせます。もっとも効果はたったの一日間で、効果が切れると逆に十年年程老いますが」
「……」
「ああ、これなんかは媚薬と呼ばれるものですね。これを使うと、性的な欲求を増加させることができます。ああでも、別に嫌われている相手に使っても意味はありませんよ。別に欲求が増加したからといって、嫌われている相手のことを好きになったりはしませんからね」
「……透明な毒というものは扱っていないのか?」
「おや……」

 店主の女性は、そこで再び驚いたような顔をした。
 透明な毒、それは噂になっているくらいは有名なものだ。もしかしたら女性も、よく聞かれているのかもしれない。

「申し訳ありません。ここではもうそういうものは扱っていないのです」
「……もう? ということは以前は扱っていたと?」
「ええ、母の代までは。私は、その製法すら知りません。透明な毒と呼ばれる毒は、もう誰にも作れないでしょう」
「……失礼ながら、あなたの母君はいつまで透明な毒の制作を」
「ほんの二年前までです。ですから、出回った毒はまだ存在しているかもしれませんね。あれは確か一滴で効果を発揮しますから、そんなにすぐにはなくならないでしょう」


 女性の言葉に、私とマグナス様は顔を見合わせた。
 私達にとって、透明な毒がここにあるかどうかはそれ程重要ではない。重要なのは、それが存在するという事実だ。