「返して!」
「こんなのでごまかせねー、よっ」
赤史は私の手をかわして、ポケットから取り出したなにかをマスクに近づける。
あれは…カッター!?
「ちょっと、やめ…っ!」
ザクッと、目の前でマスクが切り裂かれた。
何日もかけて完成した刺しゅうが、ザクザクと、無残に傷つけられる。
「あ…っ!」
「ほらよ、返してやる。素顔で出たほうが勝負になるぜ?ま、二葉には無理な話だけどな」
ぼろぼろになったマスクを投げ渡した赤史は、ははは、と笑って暗幕の裏に戻っていった。
「そんな…」
マスクを持つ手がふるえる。
今日、このときのために用意したのに。
体から力が抜けて、へたっと、床に座りこんでしまった。
どうしよう…頭が、まっしろ…。