* * *

「お待たせしてすみません。」
「いーや、全然。服の替えはあるんだけど、歯ブラシ買ってなかったことに気付いてさ~。」
「うちの近所にもコンビニあるので、もし他にも足りないものがあったら調達できますよ。」
「ありがてぇ!っていうかさ、全然タメ口でいいよ?2個しか違わないし。」
「慣れてきたらところどころそうなってしまうかもしれませんけど、今日のところは敬語でいかせてください。」
「はは!真面目でいいやつだな~。」

 瑠生が豪快に笑う。大きな口を開けて笑うと、ちょっとだけ大きな口を開けてピザを頬張る綾乃にそっくりだ。

「似てますね、綾乃さんと。」
「そう?それ言うと多分綾乃怒るから、俺にだけ言っとけよ?」
「仲が良くて、綾乃さんもいわゆるお姉ちゃんって感じで、今日は瑠生さんが来てからずっと新鮮です。」
「健人に対してはそういうお姉ちゃんムーブ、ない?」
「お姉ちゃんムーブ…?」

 知らない言葉が出てきて、健人は少しだけ首を傾げた。

「まぁ、健人は弟じゃなくて彼氏だからな。見せる顔は違って当然か。」
「弟感の方が強いかもしれませんけど…。」
「いや、多分んなことねーと思ったよ、俺。」
「そう…ですか?」

 瑠生の目には自分はどう映ったのだろう。それが気になって、健人は瑠生の言葉を待った。

「綾乃、嬉しそうだった。健人の言う『可愛い』が。」
「言ってましたか、僕。」
「うん。俺がいてもスルッと出てくるっつーことは日常的に結構言ってる?」
「…多分、言ってると思います。綾乃さん、あの、付き合い始める前から可愛かったんですけど。」
「うん。」
「付き合ってからはもっと色々可愛くて。」
「はは、めっちゃノロけるじゃん。」
「あっ、すみません!そういうつもりじゃ…。」
「いや、ノロけてよ。綾乃がすっげー大事にされてる方が嬉しいし。」

 そう言う瑠生は、健人の視線に気付いてニカッと笑った。

「やっぱ、俺の目に狂いはなかったなー。綾乃のこと、可愛がってくれてありがとな、健人。やっぱお前はいい奴だ!」

 バシッと背を叩かれる。初めてにも近い経験で驚き、背筋が伸びた。