「あの本当に、断ってください!うちの弟が我儘を言ってるだけなので…!」
「健人と話したいんだってー!」
「だから黙って!」
「ははは、どうやら健人を気に入ってくれたご様子ですね。健人が誰かを呼びたいとか、泊めたいなんてことを言ったのは初めてですよ。だからちょっと僕、ワクワクしています。僕にも健人にも気兼ねすることはありませんよ。」
「でもっ…!」
「湯本さんは明日もお仕事でしょう?早めに休んでください。」
「…あの、本当にご迷惑では…。」
「いえ、全く。弟さんが健人の友達の一人になってくれたらなんて、そんなことを思っていますよ。」

 そう言われてしまえば、綾乃は弱かった。弟と健人はタイプが全く異なるが、もしかしたら仲良くなれる部分があるのかもしれない。こんな形になってしまったこと自体は申し訳ない。しかし、オーナーの声が少し弾んでいるのは事実だ。

「…それ言われたら弱いです、私。」
「ずるいことを言いましたね。でも、湯本さんの手に負えないことは分けていいんですよ。健人にも、僕にも。弟さんと知り合って仲良くなれるなら、それはきっといいことだと思いますしね。」
「じゃあ、お言葉に甘えさせてもらいますね。健人くんにスマホ、お返しします。」

 綾乃からスマホを受け取った健人は、うん、うんと頷いている。通話が終わり、健人は視線を綾乃に向けた。