綾乃はカバンの中のスマホをチェックする。着信3件。その相手がおそらく、玄関前にいる人だろう。そんなことを考えていると、スマホが震えた。綾乃は仕方なくスワイプする。

『あーやっと出たな、綾乃。』
「…今、チャイム鳴らしたの、瑠生(るい)?」
『家いんじゃん、開けてー。』

 これは厄介なことになったと思って、健人を見上げる。健人は空気を読んで、黙っている。

「開けてもいいけど、時間も時間だし絶対ぎゃーとか大声出さないでよね。」
『何?誰かいんの?あ、彼氏でもできた?』
「そう。今いるから。」

 そこまで言って、一度通話を切る。綾乃は健人に小さな声で話し始める。

「…うちのバカ弟が突然こっちに来たみたいで…今玄関前にいるの。ここで鉢合わせするの、面倒だよね…。」
「面倒とかではないですけど、少し挨拶したらすぐ帰りますよ。それで大丈夫ですか?」
「あの、嫌じゃ…ない?」
「綾乃さんの弟さんなんですよね?綾乃さんが家族に会わせるのはって感じでしたら会わないように取り計らってもらわないとなんですけど、僕自身は気にならないというか…。」
「健人くんが気にしないなら…ちょっとだけ紹介してもいい?」
「はい。」
「…じゃあ、開けます。」

 綾乃はゆっくりと玄関のドアを開けた。目の前にいたのは、健人と同じくらいの背丈の、髪が明るめの茶髪の男だった。

「マジじゃん!」
「…ねぇ、時間考えて。」
「はじめまして。咲州健人と言います。綾乃さんとお付き合いさせていただいています。」

 健人は静かに頭を下げた。