「いなくなっちゃいそうな感じはしません。…僕が欲張りになってるだけです。嘘だとは思ってないし、ちゃんと感覚があるから現実だとわかっているけど触れて確かめたいというか、いるんだなって思いたい。」

 綾乃の頬に触れている健人の手を、綾乃は外側からきゅっと掴んだ。

「いるよ、ちゃんと。」
「ふふ、はい。」

 健人の顔が再び近付いてきて、綾乃は思わず目を閉じる。こつんと優しく額が触れあって、そのまま健人が動かないので目を開けると、優しい目で綾乃を見つめるその瞳と真っすぐ向かい合う羽目になった。

「…綾乃さんがちょっと照れた感じで目を合わせてくれるのが可愛くて、癖になってます。」
「…照れるってわかってやってるってこと?策士!」
「わかってきたところも少しだけあるけど、そうですね…思っていた以上に、綾乃さんは可愛いです。」
「か、可愛くないよ!」

 両頬に健人の手が添えられる。初めての体験に、綾乃の視線は盛大に泳ぐ。

「んん!?なに!?」
「あんまり可愛いことばっかりするので、僕がたくさん、綾乃さんに触れたくなっちゃうんですよ。ずっと見ていたいし、話していたいし、手も繋いでいたいし、抱きしめていたい。…ね?どんどん欲深くなってるので、綾乃さんが限界になる前に止めてくださいね。」
「と、止める…?」
「はい。綾乃さんに無理させたいわけじゃないので。僕ばっかりが嬉しくて、綾乃さんがいつもびっくりしてるんじゃ、綾乃さん、疲れちゃうでしょう?」

 頬から手が離れる。温かい温度が遠ざかっていく。

「…ばっかり、じゃないよ。」

 健人はたくさん言葉にしてくれる。態度にも出してくれる。『好きだ』と。『大事にしたい』と。それをもらっているだけの自分でいていいはずがない。

「ん?」
「健人くんばっかりが…その、嬉しい、わけじゃないよ。緊張するし、どうしたらって…思うこともあるけど、ちゃんと全部嬉しいよ。思ってることを話してくれるところも、大切に思ってくれていることも。嬉しい、です。多分、私が色々下手で伝わってないと思うから、なるべくちゃんと口に出して言うね。あ、あと、態度にもちゃんと出します。」