「任せてください全部!って言えたら良かったんですけど…そこまでかっこよくなくてすみません!」
「いえ、充分です。ありがとうしか言うことがありませんよ、本当に。」

* * *

「今日は素敵な報告をありがとうございました。」
「…健人くんに嫌われないように、全力を尽くしますね。」
「はは。あ、来た来た。」
「!?健人くん!?」

 綾乃がオーナーを見つめると、ニコニコと笑っている。

「じゃあ、僕は先に家に帰ってるから、ちゃんとお家まで送り届けなさいね。では、今日は本当にありがとうございました。健人のことをよろしくお願いしますね。」
「へっ、あっ…はい!」

 ぺこぺことオーナーに頭を下げ、遠ざかる背中を見つめる。そして、綾乃はゆっくりと健人に視線を合わせた。さっきから、健人の視線がずっと綾乃に突き刺さっていて、ロクに目が見られなかった。

「…怒って…る…?」
「…何か僕のことで、心配なこととかありましたか?」

 不安そうな瞳が揺らぐ。綾乃は、健人の両手をぎゅっと握った。

「…ないよ。ただね、オーナーさんは健人くんのことを今一番大事に考えてる人だから、私で大丈夫なのかって確認がしたかっただけ。私がお世話になってる人でもあるから、きちんとお伝えしたかったの。」
「…いきなり綾乃さんと食事に行くって言われてびっくりしました。」
「お店で言うのは…うん、なんか定期的に思い出しちゃいそうで…だから場所を変えたくて…。」
「…悪い話じゃなくて良かったです。」

 自然と繋がれた手。そこから伝わる温度に、胸が少し高鳴る。これは、前とはわずかに違う気持ちだ。