「…うーん…綾乃さんが抱きしめてくれたのも、頭を撫でてくれたのも全部嬉しかったから…多分、綾乃さんにされて嫌なこと、嫌われるくらいしかないです。それ以外は全部嬉しい、きっと。」
「…あぁ、だめだ。また熱い。はぁー…本当に彼女いたことないの?こんなに攻撃力高いのに?」
「攻撃?攻撃してますか、僕。」
「強いよぉ、健人くん。私が弱すぎるだけかもだけど…。」

 綾乃の頬の色がまた少しだけ赤くなった。

「手は大丈夫で、ぎゅっとするのは…大丈夫ですか?」
「大丈夫!ハグ、すごく安心する。」
「良かった…。他は、どういうスキンシップがあるんでしょうか?」
「…腕を組む…?あ、でもそれは私が健人くんの腕にぎゅっとする感じだから…私が頑張らないと検証できないやつだ…。」
「今度どこか行くときに試してみますか?」
「…勇気が出たら、試そう。」
「はは、はい。あ、頭を撫でるは、僕がしてもらいましたけど、僕が綾乃さんにするのもいいですか?」
「うん。…恥ずかしいけど。なんだろう、顔が見えると緊張するのかな…ほっぺつんってされたのも、嫌ではないんだけどすっごい照れちゃった。顔へのスキンシップに弱い…私…?」
「顔へのスキンシップ…。」
「あっ…!」
「えっ?どうしました?」

 目の前の綾乃の頬がいまだかつて見たことのないほど赤く染まっている。

「…綾乃、さん?」
「…キス。」
「え?」
「…次の段階は、多分世の中的にキスだと思う。」

 そう言った綾乃の視線が床に向かってしまった。思い当って真っ赤になってしまったのだろう。

「…キスは、ゆっくり練習に付き合ってもらえると嬉しいです。」
「え…?」
「あの、僕、したことがないから多分うまくできないですし、…唇へのキスは難易度高そうだから、…例えばですけど。」

 健人はとっていた綾乃の手をそっと持ち上げて、その甲にそっと唇を落とした。

「っ…!」
「…嫌じゃないですか?」
「…うん、ご、ごめんね、急に何か物語の王子様みたいな動きするからびっくりしちゃった。」
「王子様っぽかったですか?」

 綾乃は声にならず、頭だけを動かして肯定する。すると健人はにっこりと笑った。