「…あのね、健人くん。」
「はい。」
「耳の近くでね、今物理的に距離がそうなってるから仕方ないんだけどね。」
「…はい。」
「声が耳元で聞こえるから、その…好きとかいっぱい言われると、私もキャパがね、オーバーしちゃうっていうか…。」

 少し上ずって聞こえる綾乃の言葉に、健人は少しだけ顔を上げて、さらに目線を上にやると赤くなった綾乃の耳が見えた。顔が見たくなって綾乃の肩から完全に頭を上げて綾乃を見つめると、最初は合った目が照れたように泳いだ。

「…可愛い、ほんと。綾乃さん、ほっぺ赤くて可愛いです。」
「…健人くんだって可愛かったよ、さっきまで。」
「情けない、じゃなくてですか?」
「うん。いつでも素直で可愛い。」

 健人は指を綾乃の頬に伸ばす。軽く触れたその頬は柔らかくて、ほんのりと赤い。

「へっ?な、なに?どうしたの?」
「可愛くてつい。」
「…あんまり、年上を弄んじゃだめだよ。」
「弄んでなんてないです。綾乃さんが可愛くて、優しくて…してくれることの全部が嬉しくて、…さっき服を掴んでしまったみたいに、幸せな気持ちが爆発しそうになってつい体が動いちゃうんです。」
「このツンってやつがそうなの?」
「はい。だから、つい綾乃さんに触れてしまうけど…あの、でも嫌なことはしたくないので、嫌な時は絶対言ってください。」