「大丈夫だよ。私、ちゃんとここにいるからね。落ち着くまでずっと、こうしてるし、他にしてほしいことあったらするよ。」

(…充分、だ。こんな風に泣けることだけで、充分だ。)

 声をあげて泣くと、叔父さんが飛んできて様子を見に来てくれた。それは有難くて、感謝すべきことだとわかっていたが、心苦しかった。ただでさえ自分を育てる義務が本来なかった人だ。元々好きな人だったからこそ、負担になりたくなかった。いつしか声を押し殺してただ涙を流すようになった。それが一番目を腫らさずに済んで、誰にも迷惑をかけない方法だとわかったからだった。
 そんな自分が涙を流す姿を見て、ただ泣いていいと肩を貸してくれる人に、しかも身内でも何でもない人に出会うなんて思わなかった。そして、その人を好きになって、その人が自分を好きだと言ってくれる未来が自分に訪れるなんて。
 体の中を駆け巡る様々な気持ちをどうしたらいいかわからなくなって、思わず伸ばした手でつかんだ綾乃の服。それを拒絶されることもなく、ただポンポンと背中を軽く叩いてくれる。それが余計に涙を助長した。

「…充分です。」
「ん?」
「今が、本当に奇跡みたいなので…。」
「はは、確かに。誰かが自分を好きだって言ってくれて、その相手のことを大事に想えるって、それが奇跡だよね。私もそう思う。」
「…綾乃さん。」
「なぁに?」
「…好きです。」
「へっ!?あっ…ありがと…。」
「…好きです、本当に。こういう風に、弱い自分でも大丈夫って言ってくれて、ますます好きになりました。」
「…弱いのは、私もだから。」

 本当に弱い人はきっと、相手の弱さを受け止められないと健人はそう思う。健人は肩に頭を乗せたまま、首を横に振った。