「…ただ、知ってもらいたかった気持ちもあったんです。」
「うん。」
「人と関わることを諦めたことがある僕が、諦めたくないなって思ったのが綾乃さんだってことを知ってもらうためには話さなきゃなって。」
「…じゃあ、私も一つ、白状するね。」
「…はい?」
「実は先にね、オーナーさんに聞いたことがあったの。健人くんのご家族はって。」
「…それっていつですか?」
「健人くんが忘年会?かなんかでお腹減らしてお店に来た、ちょっと前。」
「あの時ですか。でもそんなに前から知ってたのに…。」

 綾乃は空いているもう一方の手も健人の手の上に乗せた。

「健人くんが話してくれたら聞くけど、自分からは根掘り葉掘り聞きませんってオーナーさんに言ったの。健人くんのことだから、健人くんじゃない人から話を聞くのはずるいかなと思って。だからね、ご両親のことをこのタイミングで話すのか…と思って、やっぱり真っすぐな子なんだね、健人くんはって改めて感じた。」
「タイミング、悪かったですか?」
「ううん。自分にとって重要なことで話していないことがあるのが良くないって思ってくれたんだよね。」

 健人は静かに頷いた。そのふわふわの髪に触れて、撫でてあげたい気持ちに駆られるがそこはぐっと我慢した。

「…嬉しかった。いつでもきちんと話をしてくれるし、聞いてくれる。そういうことが、私はやっぱり嬉しい。だから、健人くんがご両親のことを話してくれて、話そうって思うくらいの人に私がなってたのかなって思うと、それが嬉しい。それとね、一緒にいることで健人くんの寂しさとか、そういう感情が少しでも減るなら…それも嬉しいなって思う。役に立ててるってことだと思うから。」
「綾乃さん。」
「ん?なに?」
「抱きしめても、いいですか?」
「へっ!?」

 さっきから何度もこの弱弱しい声で返事をしてしまっている気がする。うろたえるな、年上女!と自分に喝を入れる。