「綾乃さんと、なるべく一緒の時間を過ごしたいです。僕の方こそ至らないところが多くあるし、多分考え方も暗くて重いし、迷惑をたくさんかけてしまうと思うけどそれでも…綾乃さんが僕を好きだと思えるところがあって、傍にいても嫌じゃないなら、傍においてほしいです。」
「…後悔しない?」
「しません。」
「他の大学生の子みたいに、講義後にいっぱいデートとかできないよ。」

 綾乃は鼻をすんと鳴らしながら続けた。

「外出したいわけじゃないですから。綾乃さんといたいだけです。」
「…女の子らしいこと、できないよ。」
「女の子らしいことっていうのがよくわからないけど、綾乃さんがしたいようにしてください。」
「…本当に、こんな私に…都合のいい展開、あっていいの?」
「僕にとっても都合のいい展開ですよ、そんなの。今、こうやってぎゅってさせてもらってますし。」

 健人の腕が少しだけ強まる。やっぱり全部嬉しい。手を握ってくれることも、こうやって遠慮がちに抱きしめてくれることも。この体温と香りに安心して、優しい気持ちになれることも。
 綾乃は腕の力を緩めた。それに気付いた健人も、ゆっくりと腕の力を緩める。二人の間に、少しだけ距離ができる。半泣き状態で情けない顔をしていることは間違いないが、綾乃はまっすぐに健人を見つめた。そして健人の両手をそっと握る。

「…ぐだぐだ、かっこ悪いことをたくさん言ってごめんなさい。こんな私で良ければ、健人くんの彼女にしてください。」
「…ぜひ。じゃあ、僕のことも、綾乃さんの彼氏にしてください。」
「よろしくお願いします。」

 健人が柔らかく微笑んだ。それにつられて、綾乃も涙目のまま微笑む。