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 次の週の金曜の夜、21時を3分過ぎた頃に綾乃の家のチャイムが鳴った。

「こんばんは。バイト後にごめんね。」
「それを言うなら綾乃さんだって仕事後じゃないですか。」
「そうなんだけど、時間遅いし…。」
「綾乃さんからの話の内容が気になって、土日まで待てなかっただけです。」
「…話があるとか言われたら、気が気じゃないよね…ごめんね、仰々しく言っちゃって。と、とりあえずどうぞ。手洗ったりうがいとかするならそこ入ってね。トイレはここです。」
「手、洗わせてもらいます。」
「うん、どうぞ。」

 靴を揃えてから家にあがった健人は、そのまま洗面所で手を洗っているようだ。そわそわする気持ちを押さえて、綾乃はケトルのボタンを押した。

「今お湯沸かしてるから、何か飲み物…インスタントコーヒーなら色々種類があるけど、夜だしコーヒーはあんまりよくないか。うーん…。」
「あの、キッチン、入っても大丈夫ですか?」
「もちろん。あ、選ぶ?ここから選んでね。」
「ありがとうございます。」

 綾乃の隣に立つと、健人は物珍しそうにインスタントのスティックを眺める。

「これ、飲んでみたいです。」
「ピーチティーね。はーい。あ、健人くんは座ってて。すぐできるから。」
「わかりました。」

 そわそわしていたのは綾乃だけではなかった。健人もどこかぎこちない様子で、テーブルの前に着席した。

「はい、お待たせしました。」
「ありがとうございます。」
「熱いので気をつけてね。」
「はい。」

 コクリと喉が鳴る。綾乃は一口飲むと、まっすぐに健人を見据えた。