「どっちも、綾乃さんが先に食べていいですよ。余った分を食べますんで。」
「あ、いや、そうじゃなくて。健人くんも食べたいの、それだった?」
「いちごブラウニーがいいかなと思ってました。でも、色々な味が食べれる方が楽しいですし。」
「…食べかけ、嫌じゃない?」
「はい。全然気にしません。」
「私も平気だから、ちゃんと健人くんもいちごブラウニーの方は先に食べてね?」
「はい。」

 くしゃっと、可愛い笑みが返ってくる。また、ドクンと大きく音が鳴ったような気がする。
 2つ注文して受け取ると、近くのベンチに座った。

「いただきます。」
「いただきます!」

 生クリームの甘さと、いちごの酸味が口に広がった。カスタードクリームには一口ではたどり着けなかったようだ。

「美味しいですね、クレープ。」
「あんまり食べないよね?」
「そうですね…食べたことがないわけじゃないんですけど。」
「私も久しぶりだよ。あ、はい、どうぞ。」

 綾乃はクレープを差し出した。てっきり、受け取ってくれるものだと思っていたのに、次に起きたことはそうではなかった。

「!?」
「あ、こっちも美味しいですね。」

 綾乃の手の上に健人の手が乗り、そのままクレープが健人の口元まで引き寄せられた。

「綾乃さんも、どうぞ。」

 この流れは確実に、『クレープを受け取るのではなく、噛り付け』と言われている。綾乃は腹を括って、少し赤みがさした頬に気付かれないように願いながらクレープを一口頬張った。

(味がわからないくらい恥ずかしい…!なんで健人くんは平然と…?)