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さすがデートスポットといったところか、プラネタリウムにはそれなりにカップルがいた。例に漏れず、手を繋いで開くのを待っているのだから、見た目だけは立派に自分たちもカップルであろう。実のところ、綾乃がはっきりとした返事をしていない関係ではあるのだが。

「南の島をめぐりながら星空を眺める…ヒーリングプラネタリウムでしたよね。」
「そう。あ、このポスターのやつ!」
「南国の香りがするんでしょうか?」
「南国の香り…どんなのだろう。お花の香りだと嬉しいけど。」
「好きな香り、何かありますか?」
「うーん…そうだなぁ…あ、今はイランイラン。」
「イランイラン…?」
「あ、そうだよね、あんまり馴染みないよね。今、ヘアオイルで使ってるのがイランイランの香りなんだけど、結構気に入ってるんだ。」
「ヘアオイルということは、綾乃さんの髪から香りますか?」
「今はもう香り、飛んじゃってると思う。」
「そうなんですね…。」

 少しだけシュンとした姿も可愛らしい。小さく微笑んだ綾乃に気付いた健人は口を開いた。

「え、またおかしなことしましたか?」
「あ、ううん。全然。あ、あとでドラッグストア寄ってもいい?」
「はい。でも突然、何でですか?」
「多分ね、私が使ってるもののサンプル、置いてると思うから。香りのお試しができるはず。プラネタリウム終わったら寄ってみよう?」
「はい!」

 大したことではないのに、それを大したことのようににっこりと微笑んでくれるから、健人との時間が好きになっている。それは綾乃の中で確かな気持ちとして積み重なっていた。