「力、強いですか?」
「ううん。私の手、冷たくてごめんね。」
「いえ。綾乃さんの手の小ささに驚いてて、冷たさは二の次でした。」
「私が小さいっていうより、健人くんが大きいんだよ~私のこれ、標準。」
「確かに、手は大きいほうかもしれないです。あ、力加減変な感じだったら言ってくださいね。」
「大丈夫大丈夫。あったかくて、助かってる。」
「…良かった。」

 付き合うという口約束はしていないのに、手を繋いで人気のない冬の夜道を歩く。こんなに心穏やかな時間を平日の夜にもてているなんて、本当に不思議な気分だった。
 ほっと吐いた健人のため息に、綾乃はくすっと笑った。

「え?笑われるようなこと、ありました?」
「ううん。健人くん、色々と正直で可愛いね。わかりやすくてそれも助かる。」
「わかりやすいですか、僕。」
「うん。すごーく私に気を遣ってくれてるんだなって思うし、あ、今安心してくれたなとかそういうのも、表情見せてくれればよくわかるよ。」
「…子供っぽくてすみません。」

 綾乃は少しだけ、握られた手に力を込めてみた。

「子供っぽいのは私もだから、大丈夫だよ。手を繋ぐなんて、今時中学生とか高校生でも普通にしてるのにね。私は久しぶりすぎて、ちょっと照れくさい。」

 少しだけ鼻を掻きながら視線を地面に移す。頬に熱が集まってくる。

「可愛いの、絶対綾乃さんの方ですからね。」
「えぇ~全然そんなことないけどなぁ。健人くんの方が可愛いよ。」

 握り返される手に距離が近くなったような気になって、心拍数が上がる。

「手汗!手汗がやばいかも!ごめんね!」
「そんなの僕も、ずっとですよ。」

 視線が合えば、柔らかく微笑まれる。その笑みにまた綾乃の心拍数は少し上がった。