* * *

「こんばんは、いらっしゃいませ。」
「こんばんは。」

 出迎えてくれたのは健人だった。ニコニコの表情が仕事後の疲労には眩しすぎて、綾乃はふらふらと中に入っていく。月曜日、閉店一時間前に駆け込み、カウンター席に座った。

「月曜日にいらっしゃるとは珍しいですね。」
「…あの、オーナーにちょっと急ぎでご相談したいことがありまして。」

 横目でちらりとみた健人はほかのテーブルのラストオーダーを確認している。まだしばらくは仕事がありそうだ。

「相談とは珍しいですね。健人のことですか?」
「うっ、鋭いですね。というか健人くん、もしかしてオーナーに全て話してますか?」
「全て、ではないかもしれませんが、言うつもりではなかったことを話してしまったから、湯本さんがしばらくお店に来てくれないかもしれないと家で嘆いていたくらいですかね。さしずめ、告白でもされましたか。」
「……、すみません。」

 綾乃が謝ると、オーナーは朗らかに笑った。

「湯本さんが謝るようなことは何もありませんよ。さて、健人に聞かれては困るお話のようですし、相談とはどのような内容ですか?」
「…えっと、実は、来週二人で出かけることになってまして。」
「健人が誘ったんですか?」
「…はい…キラキラの目に負けました。」
「あはは、なるほど。湯本さんの優しさにつけこむなんて、あの子もなかなかやりますね。」
「笑い事じゃないですよ!つけこまれたとかではないんですけど、何も考えずに安易にOKを出しちゃって、今、それですごく悩んでて…。」

 先日聡美に話した場所やお金のこともそうだが、大学生になったばかりの男の子とのデートに何を着て、どんな髪型にすればいいのかなど、日にちが近付いてくればくるほど綾乃の心は悩みでいっぱいになっていた。