「実際、不安なんじゃないの?だって、恋愛事が初めてなんでしょ?」
「…うーん…、それだけではないのかもなんだけどさ。」

 オーナーから聞いたことを、綾乃は誰にも言っていなかった。まだ本人の口から聞いてもいないことを他の人に言うつもりはなかった。

「まぁ…不安そうなのは綾乃もか。」
「…健人くんの気持ちを疑ってるとか、そういうのはないんだけどね。『レンアイ』は私には難しい、ほんとに。」

 素を見せたいのに、タイミングを間違えばそれで関係は途絶えてしまって、気を遣いすぎると疲れてしまう。

「それで、今はデートをどうしようかで悩んでるんだっけ。日にちと大体の時間だけ決まって、ノープランと。」
「…場所の設定が難しいし、そういえばどういうことが趣味なのかとかも知らないし、あとお金!全部奢ってもいいんだけど、多分全部奢られるのは嫌だろうなとかも思うけど、年下の子に諸々全額奢らせるとかは罪悪感で心が死ぬ!」
「オーナーさんに相談してみたら?実際、彼のこと、一番詳しい人じゃない?」
「それは確かに!」
「告白されてからもお店には行ってるんでしょ?」
「うん。いきなり行かないのも変だし、実際一番安心するんだもん、あの味。」
「まー彼がいない日を図って行くのは難しいかもだけどさ、相変わらずカウンター席の常連やってるんでしょ?」
「うん。」
「綾乃のいいところでもあり悪いところでもあるとは思うんだけどさ。」
「…何、いきなり改まって。」

 片肘をついていた綾乃は、じと目で聡美を見上げた。

「一人でなんでもやろうとするところは、好感がもてるし私は好きだけど。でも、二人のことだから一緒に考えるの、アリっていうか、…そう肩肘張ってないでもうちょっと楽に生きな。」
「…忠告、しかと受け止めました。」

 受け止めた綾乃は、そのままテーブルに突っ伏した。