* * *

「あのさぁ~綾乃。」
「はいっ!」
「それは当たり前にデートだし、大体さぁ…綾乃のここまでの話を総括したら…。」
「やめて、その先は言わないで。」

 言いたいことのおおよその見当はついていた。

「そんなにいい子で、大事にしたい子なんでしょ?何を悩むことがあるの?向こうが好きって言ってくれてて、充分愛してくれそうで、主導権は自分が握れそうじゃない。相手に握ってもらいたいタイプでもないわけだし?」
「…いい子だから、絶対に幸せになってもらいたいの。」
「だから、それが綾乃と付き合うことなわけでしょ?」
「とは言い切れなくない?年上に夢見てるだけでがっかりさせちゃうかもしれないし、若くて可愛い子は周りにたくさんいるだろうし。」

 健人との『デート』が2週間後に迫った2月上旬の土曜の昼。友人の聡美と一緒に来たのは会社近くのカフェだった。大学時代からの友人で、職場が遠いため平日に飲みに行くこともあまりできず、いわゆる隠れ家的カフェをお互いに探しては、近況報告会を開いている。普段は綾乃からこの類の相談をすることはないが、今回は悩みに悩んで八方塞がりになっていて、羞恥心と闘いながら事の顛末を話すことにした。

「…ふぅん、彼は勇気を出したのに、綾乃は嫌われたくないから近付きたくない、と。」
「…痛いところついてきたね。」
「痛いところついてあげてなんぼでしょ、友達なんて。」
「それはそう。ありがとね、こんなしょーもない話。」
「一大事でしょ。嫌われたくない、大事な子とのデート前なんだから。」
「諸々強調しないで。一緒にお出かけしたいって言われただけだから。」
「あのね、向こうに好意があるってわかってて行く外出をデートと呼ぶの。」
「…それはまぁ、そうだけど。」
「綾乃も了承してるんだから、その気があったってことでしょ。」
「…ちょっとさ、不安げな表情するのよね…。そういう、何か私に頼むというか、お願いするとき。」

 綾乃はあの夜の健人の顔を思い出していた。