「あの、綾乃さん。」
「何でしょうか。」
「さっき言ってた、お詫びの代わりに少しだけお願いしてもいいですか。」
「お詫びの代わり…。」
「お詫びはいらないって言ったんですけど、惜しくなっちゃったので…我儘をきいてもらいたくて。…というか、何かにかこつけないと、聞けないので…。」
「そこをばらしちゃうんですね、私に。ふふ、いいですよ。何ですか?」
「連絡先を、教えてもらってもいいですか?」

 何を言われるのかと身構えたが、綾乃は肩を撫でおろした。

「我儘じゃないですよ、こんなの。もちろんです。」

 スマートフォンを取り出し、連絡先を交換する。たったそれだけのことで、過去にもたくさんの人としてきたことなのに、綾乃も健人も妙にぎこちなかった。

「他にはありますか?」
「…他も、いいんですか?」
「全然お詫びにならないですもん、こんなのじゃ。思いつくものがあれば、どうぞ。」
「…じゃあ、あの。」
「はい。」
「敬語じゃなくて、くだけた話し方で話してもらいたいです。」
「えっ、あ、私さっきから結構くだけてたけど…わ、わかりました。普通に喋る。はい。…これだけ?全然釣り合ってないよね…労働量と私の負担?負担でも何でもないものばっかりなんだけど…。他にはある?」

 健人は少し、視線を彷徨わせた。再び目が合って、意を決したように健人が口を開いた。

「じゃあ、結構な我儘、言ってもいいですか?」
「うん、どうぞ。できる限り、叶えます。」
「お休みの日に、出かけたいです。綾乃さんと。」