「到着です。」

 綾乃はゆっくりと腕をといて、健人の背中からおりた。

「ありがとうございました。疲れちゃってないですか?」
「大丈夫ですよ。綾乃さんは体調、大丈夫ですか?」
「すっかり酔いも醒めました。悪酔いは今後しません。反省しました。」

 深々と頭を下げた。本当に恥ずべき行為だったと、心の底から反省している。

「酔っぱらっているところも可愛かったですけど。」
「か、かわ…!?」
「綾乃さん、出会った頃からずっと、ちゃんと可愛いですよ。ずっと思ってました。」

(可愛いも、ずっとも2回も言った!?)

「け、健人くんさぁ、攻撃力高い!」
「攻撃力…?暴力的ですか?」
「違う!なんだろう、素直さで殴ってくるっていうのかな…。あ、あのね、私は…。」
「はい。」

 こんなことを言わされることも恥だが、きっと素直な彼であれば言うことを聞いてくれるはずだと信じて、綾乃は口を開く。

「可愛いとか好きとか…その、なんだろうな…いわゆる、彼氏がいる女の子が言われてそうなセリフとはあまり縁のない人生だったので耐性がありません。自分で言うのもなんですが。」
「嫌、ですか?」
「うっ…。」

 背は綾乃より高く、決して上目遣いで見られているわけではないのに、少ししゅんとした目尻が可愛さを作ってしまっている。この目には多分、自分は弱いということが今、わかってしまった。

「綾乃さんに嫌な思いをさせて嫌われたくないので、綾乃さんが不快になるようなことは言いません。直すので言ってください。でも、可愛いとか好き…とかは、できれば言わせてもらいたいんですけど…。」
「…いちいち、過剰に反応してしまったらごめんなさい。」

 目が合わせられなくなって下を向いてしまった関係で、最後の方は声が小さくなってしまった。そんな綾乃を見て、健人は小さく微笑んだ。