「健人くん。」
「なんですか?」
「今度、今日のお詫びをさせてください。」
「お詫び…?何のお詫びですか?」
「今、まさにこの状況の…。」
「これは僕が嬉しいだけの状況なので、お詫びは必要ありません。」
「う、嬉しい状況、なの、これ…?」
「はい。」

 いつもより少しだけ高いトーンの声に、確かに喜びは表れているのかもしれない。しかし、そこまで真っすぐに返されてしまうと、綾乃の方が面食らって盛大に照れてしまう。健人がどう思っているかはわからないが、綾乃は百戦錬磨の恋愛のプロじゃない。プロじゃないどころかほぼ素人のようなものだ。

「あ、あの…。」
「はい、どうしました?」
「健人くんから見て私は…。」
「はい。」
「……。」
「綾乃さん?」
「う、やっぱりいいです。何でもないです。」
「…そう、ですか。あ、あの、綾乃さん。」
「は、はい!何でしょうか!」
「…僕の滅茶苦茶な話を最後までちゃんと聞いてくれて、嬉しかったです。」

 ぽつりぽつりと零れていく言葉が、優しく綾乃の耳に届く。

「本当は全然、…言うつもりは…ありませんでした。」
「…口が滑っちゃった感じ、ですか?」
「滑ったというか、ずっと蓋をして開けないようにしていたものが…綾乃さんに対して少しずつ積もっていた気持ちがあふれて、こぼれ落ちた…というか。」