真っすぐに向けられた目は綾乃をとらえたままだった。普段の柔らかさは確かにそこにあるのに、その奥に今までに感じたことのない熱のようなものが見え隠れして、それが綾乃の頬を染めた。先に視線を外して口を開いたのは綾乃の方だった。

「…意外と押しが強いタイプなの?」
「…どうでしょう。生まれて初めて告白しました。」
「え、えぇ?そうなの?」
「そんなに意外ですか?こういうことに積極的に見えます?」
「い、いえ。あ、あれでしょ、告白されてた側の人間でしょ。」
「違います。…こういうの、初めてです。」

 初めて告白した。その言葉が綾乃の頭の中で繰り返し、唱えられる。

「え…は、初めて?」
「はい。」
「ちょっと待って。」
「はい。」
「このまま付き合うことになったら、私が健人くんの最初の彼女…?」
「…そうですね。」
「…それって責任重大じゃない?」
「それは、僕が過去に彼女がいなかったから責任重大、ということですか?」
「違います!」

 思わず大きな声で否定してしまった。そうではない。過去に彼女がいてもいなくても、責任重大だ。

「健人くんがいい子だから、責任重大です。ちゃんと向き合って、ちゃんと人間関係を築いて、ちゃんと幸せになるべき人だと思う…ので。」

 中途半端に振り回したり、ちょっとした遊びなんかに使っていい人ではない。もちろん、過去にそういうことをしてきたわけではないが、不用意に傷つけていい存在ではないのだ。彼はもう充分に傷ついている。それでもなお、今踏み出そうとしたのだから。
 
「綾乃さん。」
「はい。」

 体の前できゅっと握っていた両手の上に、健人の手がそっと触れた。

「いきなり言ったことを真剣に考えてくださってありがとうございます。でも、ひとまず帰りませんか?寒いし、綾乃さんもやっぱりまだふらふらしているから。」
「…そうする。」

 健人は綾乃に背を向け、もう一度屈んだ。

「またおんぶしてくれるの?」
「はい、もちろんです。遠慮なくどうぞ。」
「…ありがとう。」

 綾乃はそっと、体重を預けた。