「…健人くんよりも4つも上のおばちゃんなんですが。」
「…年の話されたら、弱いです。おばちゃんではないけど、でも、綾乃さんに男として見られていないのは知っていたし、頼りないのも…事実なので。」
「頼りないなんて言ってない。」
「え?」
「頼りないとは思ってない。でも、健人くんが私なんかのどこを好きになってくれたのかわからないし、健人くんのことも知らなすぎる。だから今、好きって言ってくれたことに対して正しい返事ができない。」

 頼りないのは自分の方だ。自嘲にも似た笑みが浮かんで、そっと消す。嫌なことを遠ざけるために、酔っぱらった挙句、年下の男の子に迷惑をかけて家に送らせてるなんて、『4つもおばちゃん』がやることではない。

「付き合いたくないわけでも、恋愛したくないわけでもない。でも、今仕事が一番大事だから、そんな私のことを知って、健人くんのことをもっと知って、私も健人くんも、今の店員さんとお客さんの距離よりもずっと近付きたくなったら付き合いたい…と思う、かな。うん。今現状ではそう言うのが精一杯。」

恋愛をしたくないわけではない。その言葉に嘘はないけれど、真実だけでもない。そのあたりのことも、もしかしたら今後、話すことがあるのかもしれない。自分のことを知ってもらうためには、そして恋愛的に付き合っていくためにはきっと、話さなければならないことに入るだろう。

「充分です。綾乃さんらしくて、ますます好きになりました。」

 どこか、さっぱりとした表情で、健人はそう言った。

「え、今の発言のどの辺が?可愛らしさの欠片もない、むしろリアリティだけを追求したみたいな言葉だけど…。」
「でも、嘘がないです。それに僕も、もっと綾乃さんのことを知りたいです。」

 踏み出してもいいと、いつか思えるようになるのかは全くわからない。しかし、今向けられている好意は素直に嬉しいのも事実だった。