「…ごめん、一瞬勘違いした。ライクの好きね。そうだよね。あーびっくり。ごめんね、あんまり好きとか言われ慣れてないから。」

 ここまで、ほぼ一息で言い切った。勘違いしてはいけない。相手は4歳年下の、これから良い出会いがたくさんある、まだまだ大学生活が始まったばかりの男の子だ。

「ち…違います、けど。」
「は…い…?」

 震えた声に重なった、自分の情けない声。『違う』?違うって何が、どう?といつもより鈍く回る頭では処理が追い付かない。

「あ、えっと…違う、こともない、ですけど。あの、ライクの意味の好きもありますけど、でも…それだけじゃないっていうか、いやでも今言うつもりは本当はなくて…。」

 言われた綾乃も困惑しているが、言った健人の方も困惑しているように見える。綾乃の視界からははっきりと表情は見えないが、紡がれる言葉の歯切れの悪さに戸惑いを感じる。

「でも、ごめんねより、ありがとうの方が欲しいなって思って…っていってることがめちゃめちゃですよね…。すみません。」

『ごめんねより、ありがとうの方が欲しい』
 その優しい響きは、じわじわと綾乃の心にしみわたっていた。

「…勘違いじゃ、ないってこと?」
「…そう、なります。」
「本当に?」
「本当に。」

 綾乃は健人の首に回していた腕をほどいた。地面に足がついてようやく、今の一連の流れが嘘ではなく現実なのだとはっきりわかる。見上げた先に見えた健人は耳だけではなく頬も赤く、目が泳いでいた。パチッと目が合ったタイミングで、綾乃の方から切り出した。